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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)709号 判決 1990年1月26日

原告

山口勝也

被告

安田こと全光祐

主文

一  被告は、原告に対して、金六七二万五七二〇円及びこれに対する昭和六〇年五月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告の、その九を被告の、各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

一  当事者双方の求めた裁判

1  原告

(1)  被告は、原告に対して、金六八五万七五二〇円及びこれに対する昭和六〇年五月九日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2)  訴訟費用は、被告の負担とする。

(3)  仮執行の宣言。

2  被告

(1)  原告の請求を棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告の負担とする。

二  当事者双方の主張

1  原告の請求原因

(一)  別紙事故目録記載の交通事故(以下、本件事故という。)が発生した。

(二)  被告は、本件事故当時、被告車の所有者であつた。

よつて、被告には、自賠法三条により、原告の本件損害を賠償する責任がある。

(三)  原告の本件受傷の具体的内容及びその治療経過は、次のとおりである。

(1) 頭蓋骨骨折等。

(2) 春日記念病院 昭和六〇年五月九日より同年八月一〇日まで入院。

同年八月二〇日より同年九月一九日まで通院。

川上耳鼻咽喉科病院 昭和六〇年六月一八日より同月二一日まで通院。

神戸大学医学部付属病院 昭和六〇年六月二七日より昭和六二年九月一〇日まで通院。

神戸中央市民病院 昭和六〇年九月八日より昭和六一年一二月四日まで通院。

昭和六一年八月二七日より同年九月五日まで入院。

(3) 昭和六二年九月一〇日症状固定。

右上股運動障害等の後遺障害が残存。障害等級一二級に該当。

(四)  原告の損害は、次のとおりである。

(1) 治療費 金一九二万七八〇〇円

春日記念病院 金一四七万八一九〇円

川上耳鼻咽喉科病院 金四万四二九〇円

神戸大学医学部附属病院 金一〇万八一三〇円

神戸中央市民病院 金二九万七一九〇円

なお、右治療費は、純然たる本件受傷の治療費であり、原告の私病関係治療費を含むものでない。

(2) 付添い看護料 金五六万八三〇〇円

日額金一万円(職業付添人分)三五日分 金三五万円

日額金三七〇〇円(近親者付添人分)五九日分 金二一万八三〇〇円

(3) 入院室料・寝具代(付添人分)・雑費 金三五万五六〇〇円

入院室料 金三四万八〇〇〇円

寝具代(付添人分) 金五八〇〇円

雑費 金一八〇〇円

(4) 入院雑費 金一〇万四〇〇〇円

日額金一〇〇〇円の一〇四日分

(5) 通院交通費 金一万四四二〇円

日額金三二〇円の一五日分 金四八〇〇円

(神戸大学医学部付属病院通院バス代)

日額金七四〇円の一三日分 金九六二〇円

(神戸中央市民病院通院バス代金三二〇円、ポートライナー分金四二〇円)

(6) 診断書作成費用 金五万一五〇〇円

(7) 慰謝料 金四三八万円

入通院分 金一九八万円

後遺障害分 金二四〇万円

(8) 弁護士費用 金五〇万円

合計 金七九〇万一六二〇円

(五)  損害の填補

原告は、本件事故後、被告から本件損害に関し、金一〇四万四一〇〇円の支払いを受けた。

よつて、原告の前叙損害合計額金七九〇万一六二〇円から右金一〇四万四一〇〇円を控除すると、残額は、金六八五万七五二〇円となる。

(六)  よつて、原告は、本訴により、被告に対して、本件損害金六八五万七五二〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和六〇年五月九日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  請求原因に対する被告の答弁及び抗弁

(一)  答弁

請求原因(一)ないし(三)の各事実は認める。ただし、被告が本件事故に対する損害賠償責任を負うものでないことは、後叙抗弁において主張するとおりである。同(四)の事実は全て不知。同(五)中被告が本件事故後原告に対して合計金一〇四万四一〇〇円を支払つたことは認めるが、同(五)のその余の事実及び主張は全て争う。同(六)の主張は争う。

(二)  抗弁(免責)

(1)(イ) 被告は本件事故直前被告車を時速約二〇キロメートルで走行させ本件交差点北側入口付近に至つたが、その際、自車対面信号機の表示が青色だつたので、同人は、右交差点を右折すべく、そのままの速度で右交差点内に進入した。

(ロ) ところが、被告車が右交差点南西側横断歩道(以下本件横断歩道という。)付近に至つた時、被告は、自車前方の車道上を歩行している原告を発見したが、当時、同人は、右横断歩道外西側約一メートル右横断歩道に接続する歩道(以下本件歩道という。)から右横断歩道の設置されている車道(以下本件車道という。)上北方約四メートルの箇所を歩行していた。

しかし、被告は、原告の後方を通り抜けても何ら危険のない間隔があると思い、そのまま原告の後方約一メートルの箇所を通り抜けようとした瞬間、原告がいきなりよろめき、後方に下がつてきたため、被告車が原告に接触して、本件事故が発生した。

しかして、被告が右発見地点に至るまで原告を発見できなかつたのは、右横断歩道に接続する右歩道(右事故現場の南側)に沿つた車道上に自動車が一台駐車しており、右車両が右歩道から車道に降り右横断歩道の外側をフラフラと北行しはじめた原告の姿を、被告の視界から遮つたためである。

(ハ) 右事実関係に基づき、本件事故は、原告の一方的過失によつて発生したものであり、被告には、右事故発生に対する過失がなかつたというべきである。

(2) 被告車には、本件事故当時、構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

3  抗弁に対する原告の答弁

抗弁事実中、被告車が本件事故直前本件交差点北側入口から右交差点内に進入し右折すべく本件横断歩道付近に至つたこと、原告が右事故直前に右事故現場南側歩道から本件車道に降り北方に向け歩行し始めたこと、原告と被告車が衝突して右事故が発生したことは認めるが、その余の抗弁事実及び主張は全て争う。

原告は、本件事故直前、同人の対面信号機の表示が青色だつたのでこれにしたがい、本件横断歩道上を北方に向け歩行中右事故に遭遇したものである。

しかも、被告車の本件事故直前における速度は、時速二五ないし三〇キロメートルであつた。

結局、本件事故は、被告の前方注視義務違反等の過失によつて惹起されたものである。

よつて、被告の抗弁は、全て理由がない。

三  証拠関係

本件記録中の、書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一1  請求原因(一)ないし(三)の各事実(本件事故の発生、被告の責任原因、原告の本件受傷の具体的内容及びその治療経過。)は、当事者間に争いがない。

2  右事実関係に基づけば、被告には、自賠法三条により、原告の本件損害を賠償する責任があるいうべきである。

二  そこで、被告の抗弁(免責)について判断する。

1  抗弁事実中被告車が本件事故直前本件交差点北側入口から右交差点内に進入し右折すべく本件横断歩道付近に至つたこと、原告が右事故直前に右事故現場南側歩道から本件車道に降り北方に向け歩行し始めたこと、原告と被告車が衝突して本件事故が発生したことは、当事者間に争いがない。

2  ところで、被告は、本件事故発生に対する無過失を主張し、これにそう証拠として、成立に争いのない甲第三、第四号証、第六号証、第一一ないし第一四号証、第二二号証、第二四、第二五号証、被告本人尋問の結果がある。

(一)  しかしながら、右各文書の記載内容(ただし、後示信用する部分を除く。)、被告本人の右供述内容は、後示各証拠と対比してにわかに信用できず、他に被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(二)  かえつて、前掲甲第一一ないし第一四号証、第二四、第二五号証の各記載内容の一部、成立に争いのない甲第五号証、第一五号証、第一八号証、第二〇号証、第二三号証、第二六、第二七号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、被告は、本件事故直前、被告車を時速約二五ないし三〇キロメートルの速度で走行させ本件交差点北側入口に至つたが、右交差点内を右折して西進すべく、対面信号機の表示が青色であつたのでそのまま右交差点内に進入し、進路をやや西にとつて直進し、中央分離帯を過ぎた辺りでハンドルを右にきつて右折を始め、右交差点を構成している本件車道の歩道寄りの第一車線に進入しようとしたこと、原告が、その頃、同人の対面信号機青色の表示にしたがい、右交差点南側の本件歩道上から、右車道上で本件横断歩道西端から少し西側に外れた個所に出て、右車道上を右斜めに歩行して、右歩道から約四・四メートル北寄りの右横断歩道西端の直近付近に達していたこと、被告が、自車前方に対する注意を怠つたため、それまでに原告を発見することができず、被告車が右横断歩道の東端付近に達した際、初めて自車前方約四・五メートルの右横断歩道西端のやや西側本件車道上に、北に向つて歩行中の原告を発見し、これとの衝突を感じて、原告の後方を通り抜けようとしハンドルを左にきつてブレーキをかけたが間に合わず、同人に自車右側ハンドルを衝突させ、本件事故を惹起したこと、右事実関係から、被告には、本件横断歩道上及びその直近付近に対する安全確認義務違反があり、本件事故は、被告の右注意義務違反によつて惹起されたことが認められ、右認定各事実に照らしても、被告の前叙主張は、これを肯認するに至らない。

むしろ、右認定各事実を総合すれば、本件事故は、被告の右認定にかかる注意義務違反の過失により惹起されたというべきである。

3  結局、被告の抗弁は、その余の主張事実について判断するまでもなく、右認定説示にかかる被告の過失の存在の点で既に理由がない。

三  原告の本件損害について判断する。

1  治療費 金一九二万七八〇〇円

(一)  原告の本件受傷の具体的内容及びその治療経過は、前叙のとおり当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第二九号証の一、二、第三五号証、第四二、第四三号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告には本件事故前から糖尿病の持病があつたところ、本件受傷治療中にも、その治療病院の一部で右持病に対する治療を受けたこと、しかしながら、原告の本件受傷のみに対する治療費、即ち、同人の本件治療に関する全治療費から右持病に対する治療費を除外した治療費の合計額は一九二万七八〇〇円であることが認められ、右認定を履えすに足りる証拠はない。

右認定事実に基づけば、右治療費合計金一九二万七八〇〇円は、本件事故と相当因果関係に立つ本件損害(以下、単に本件損害という。)というべきである。

2  付添い看護料 金五六万八三〇〇円

(一)  成立に争いのない甲第三五号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が春日記念病院へ入院していた九四日間、同人には同病院の担当医師の指示により付添い看護人を付する必要があつたこと、このため、同人には、右入院期間の内三五日間職業付添人が、五九日間同人の近親者(主として同人の妻)が、それぞれ付添い看護に当つたことが認められ、右認定を履えすに足りる証拠はない。

(二)  しかして、右認定事実に基づけば、右付添い看護料も本件損害と認めるのが相当であるところ、その金額は、職業付添人分一日当り金一万円と、近親者付添い分一日当り金三七〇〇円と、それぞれ認めるのが相当である。

したがつて、本件損害としての付添い看護料は、職業付添人分金三五万円、近親者付添い分金二一万八三〇〇円の合計金五六万八三〇〇円となる。

3  入院室料・寝具代(付添人分)・雑費 金三五万三八〇〇円

(一)  成立に争いのない甲第四〇号証の一ないし一〇、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、全叙春日記念病院に入院中入院室料として合計金三四万八〇〇〇円を支払つたことが認められるところ、前叙当事者間に争いのない原告の本件受傷内容、その治療経過等からみて、右入院室料合計金三四万八〇〇〇円も本件損害と認めるのが相当である。

(二)  右甲第四〇号証の一ないし一〇によれば、原告は、前叙付添い看護料を要した期間に右付添人の寝具代として合計金五八〇〇円を支払つたことが認められるところ、原告に本件付添看護を必要とした前叙認定からみて、右寝具代金五八〇〇円も本件損害と認めるのが相当である。

(三)  なお、原告は、本件損害の一つとして雑費金一八〇〇円をも主張しているが、右雑費の具体的内容の主張がないから、右雑費を本件損害と認めることはできない。

4  入院雑費 金一〇万四〇〇〇円

(一)  原告の本件入院期間(一〇四日)は、前叙のとおり当事者間に争いがない。

(二)  弁論の全趣旨によれば、原告は、本件入院期間一〇四日中雑費を支出したことが認められるところ、本件損害としての入院雑費は、一日当り金一〇〇〇円の割合で一〇四日分合計金一〇万四〇〇〇円と認める。

5  通院交通費 金一万四四二〇円

(一)  原告の本件通院期間は、前叙のとおり当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第三三号証の一ないし一〇、第三六、第三七号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、神戸大学医学部附属病院へ春日記念病院側の紹介で実治療日数一五日通院し、一日当りバス代往復金三二〇円を要したこと、原告が右春日記念病院で受けた手術の結果が思わしくないため神戸中央市民病院へ実治療日数一三日通院して治療を受け、その交通費として一日当りバス代往復金三二〇円、ボートライナー代往復金四二〇円合計金七四〇円を要したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき、右通院交通費合計金一万四四二〇円も本件損害と認める。

6  診断書作成費用 金五万一五〇〇円

成立に争いのない甲第四一号証の一ないし一九、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件治療に関する診断書を治療各病院から受けるに際し合計金五万一五〇〇円を要したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右認定事実に基づき、右診断書作成費用合計金五万一五〇〇円も、本件損害と認める。

7  慰謝料 金四二五万円

(一)  入通院分 金一八五万円

原告の本件入通院分は、前叙のとおり当事者間に争いがない。

右事実に基づけば、原告の本件入通院分慰謝料は、金一八五万円と認めるのが相当である。

(二)  後遺障害分 金二四〇万円

原告に障害等級一二級該当の本件後遺障害が残存することは、前叙のとおり当事者間に争いがない。

右事実に基づけば、原告の本件後遺障害分慰謝料は金二四〇万円と認めるのが相当である。

8  以上、原告の本件損害の合計額は、金七二六万九八二〇円となる。

四  損害の填補

1  被告が本件事故後原告に対し合計金一〇四万四一〇〇円を支払つたことは、前叙のとおり当事者間に争いがない。

2  右事実に基づけば、右支払金合計金一〇四万四一〇〇円は、本件損害の填補として、原告の本件損害合計金七二六万九八二〇円から控除されるべきである。

しかして、右控除後における原告の本件損害額は、金六二二万五七二〇円となる。

五  弁護士費用 金五〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が本件損害の賠償を任意に履行しないため、弁護士である原告訴訟代理人等に本件訴訟の追行を委任し、その際相当額の弁護士費用を支払う旨約したことが認められるところ、本件訴訟追行の難易度、その経緯、前叙請求認容額等に鑑み、本件損害としての弁護士費用は、その主張どおり金五〇万円と認めるのが相当である。

六1  以上の全認定説示に基づき、原告は、被告に対し、本件損害合計金六七二万五七二〇円及びこれに対する本件事故の日であることが当事者間に争いのない昭和六〇年五月九日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める権利を有するというべきである。

2  よつて、原告の本訴請求は、右認定の限度で理由があるから、その範囲内でこれを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鳥飼英助)

事故目録

一 日時 昭和六〇年五月九日午後六時三五分頃。

二 場所 神戸市中央区二宮町九番二二号先路上。

(信号機の設置された交差点西側入口付近)

三 加害車 被告運転の原動機付自転車。

(被告)

四 被害者 歩行中の原告。

五 事故の態様 原告が本件交差点西側入口付近路上を南方から北方に向つて歩行中、右交差点内を北方から西方に向い右折して来た被告車と衝突し、原告は、路上に転倒した。

以上

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